<論説>東日本大震災で「デマ」扱いされた三条中学校の真実

荻上チキ

評論家の荻上チキ氏は、東日本大震災後の2015年5月に、著書『検証 東日本大震災の流言・デマ』を光文社新書から発表している。東日本大震災時に主にネット上で発生し「デマ」とみなされた事例を複数報告し検証する内容だが、中でも仙台市立三条中学校の事例は、「『デマとは決めつけられないけど、拡散する意図があやしい』と思ったもの」と分類している。

地元地方紙の河北新報社は、2011年3月22日に、「『性犯罪や略奪行為多発』…デマ横行し不安が増幅」という記事の中で、このように報じている。

「避難所となった三条中(仙台市青葉区)で中国人らが支援物資を略奪している」。震災数日後、ネットや口コミを通じ、こんなデマが流れた。三条中の教員は「ネットで流れたような行為はなかった」と否定する。三条中では一時、配給を12歳以下の子どもと乳幼児のいる母親に限ったことや、通電後に校内で火災が起きたことなどから不安が広がり、デマにつながったとみられる。
(中略)
過去の震災でもデマが引き金となり、大惨事も起きた。関東大震災(1923年)では「朝鮮人が暴徒化した」などのデマがきっかけで、迫害が広がった。

しかし、あらためて一次情報の発信者の内容を検証すると、いくつものことが分かってくる。
三条中学校情報その1

三条中学校情報その2

三条中学校情報その3

情報発信者は当初の段階から、略奪ではなく、伝達ミスによって外国人留学生が救援物資を運び出したと説明している。また、避難所に指定された体育館での外国人たちの振る舞いについて記述している。

その後、2015年の宮城教育大学教育復興支援センター紀要第三巻において、「外国人避難者と災害時多文化共生」(伊藤芳郎・朝間康子)と題した報告書が発表された。
http://fukkou.miyakyo-u.ac.jp/report/pdf/no3/11.ito.pdf

ここに一部を引用する。

  • 「外国人同士が携帯電話等で連絡を取り合い、三条中学校に集まったようだ。」
  • 「(避難者の)9割から9割5部までが外国人で、まさに外国人が避難所を占拠しているといった様子でした。要支援者を含めた日本人の中には避難所に入れなかった人も数多くいたと思います。雰囲気に戸惑い、引き返す日本人のお年よりもいました。」
  • 避難者の数が多く、備蓄庫にある量ではすぐに無くなってしまうことが分かり、1日目の夜と次の日の朝は全員に、次の夕食からは、お年寄りと小学生以下の子どもと母親に限定して配布することにした。
  • 翌3月12日(土)は早朝より、学校に宿泊していた先生やボランティアの皆さんにより食事の準備にかかった。昼食から備蓄用食料が底をつくので、限定配布とした。
  • 「体育館に避難していた30代とみられる夫婦から、外国人避難者が食べ物を散らかしているという苦情があった。(中略)。また、外国人避難者が避難所内のストーブのまわりを占拠している様子なども見られた。」
  • 「三条中ではトイレの使用法が滅茶苦茶で、使用法の表示をしたり呼びかけをしたりしても改善されませんでした。(中略)。外国人には日本の常識がないことを痛感しました。」
  • 3月13日(日)午後、通電による火災発生のため、避難所(体育館・武道館)の閉鎖を行った。(中略)。最終的に、避難所が閉鎖されたのは14日の午後であった。


上記の内容とあわせて見ると、デマとみなされた情報発信者の内容は、おおむね正しい内容であったことが分かる。発信された情報を曲解し、情報発信者への悪意をもって「中国人らが支援物資を略奪している」という異なる内容に置き換えられ、それが拡散していったというのが真相と言えるのではないだろうか。

東日本大震災当日の三条中学校
震災初日の三条中学校体育館

仙台市立三条中学校は東北大学留学生宿舎に隣接しており、留学生宿舎は地震で火災や崩落などを起こしていた訳ではなかった。あくまで、食料と水とストーブの暖をとるために、三条中学校の体育館と武道館を事実上占拠してしまった事実がうかがえる。地域住民は避難所から避難し、地域住民のために備蓄されていた食料が翌日には枯渇し、避難所の閉鎖までにはゴミの山になっていたというのが真実だったのだ。なお、この報告書には「デマ」に関する言及は一切無い。

振り返ると、関東大震災の際の朝鮮人に関する「デマ」も、当時の事件報道などの史料を検証すると、朝鮮人による放火や略奪や暴行がデマではなく事実であった為に、必ずしも「デマ」ではないことが指摘され、ネット上でも広く知られるところとなっている。東日本大震災における仙台市立三条中学校の「デマ」をめぐる報道や荻上氏の著書は、関東大震災で「デマ」が歴史として生成されていった過程を結果的になぞったものとも言える。情報は常に検証が必要である。

2016年3月11日
天之加久矢

参照
荻上チキ『検証 東日本大震災の流言・デマ』
http://www.amazon.co.jp/%E6%A4%9C%E8%A8%BC-%E6%9D%B1%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%A4%A7%E9%9C%87%E7%81%BD%E3%81%AE%E6%B5%81%E8%A8%80%E3%83%BB%E3%83%87%E3%83%9E-%E5%85%89%E6%96%87%E7%A4%BE%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E8%8D%BB%E4%B8%8A-%E3%83%81%E3%82%AD/dp/433403621X

「外国人避難者と災害時多文化共生」(伊藤芳郎・朝間康子)
http://fukkou.miyakyo-u.ac.jp/report/pdf/no3/11.ito.pdf

ネット削除、動く警察 「みる・きく・はなす」はいま
http://www.asahi.com/special/10005/OSK201105010101.html

About the Author

天之加久矢
豊受真報の記者の天之加久矢(あめのかくや)です。よろしくお願いします。